年々、災害は間近に!
防災や災害時の対応を身近なLINEで強化
2020年8月、全国に先駆けて「LINE SMART CITY GovTechプログラム」を導入した春日市。2021年2月にはさらに防災機能などを追加・拡充しました。新機能導入の舞台裏や思い、今後のことまで伺いました。(2021年2月 春日市役所にて)
春日市
総務部総務課 課長 神崎由美さん
地域生活部安全安心課 課長 武末克枝さん
経営企画部秘書広報課 広報広聴担当 主任 榎田正治さん
友だちは1万人を突破
ごみ分別の検索で業務を効率化
-春日市では現在LINEをどのように活用されていますか?
榎田:昨年8月末に春日市LINE公式アカウントをオープンして、まずは①「防災関連情報」、②欲しい情報を届ける「セグメント配信」、③チャット形式で回答する「家庭ごみの分別案内」、④公園や河川に関する不具合の「通報機能」という4機能でスタートしました。
そして今年2月1日、新たに4機能を追加・拡充しました。①防災機能の拡充、②AIによる行政手続きの案内・問い合わせ回答、③学習アプリ、④コミュニティバス「やよい」の時刻表の案内です。
-GovTechプログラムを日本で初めて導入されて、皆さんからの反応はいかがでしたか?
神崎:「友だち」登録が順調に増え、今年1月には1万人を突破して、人口の1割近くになりました。皆で大喜びしています。65%以上が40代以上の方なんですよ。
「友だち登録したいけど、やり方が分からない」と窓口や電話でお問い合わせいただくことも多くて。先日はIT推進担当の職員が、高齢の方から電話で登録方法を聞かれたものの、どうしてもうまくいかなくて、結局はお宅まで伺っていました。ずいぶん前のめりでやらせていただいています(笑)。
―えぇ、市民のご自宅まで!素晴らしいですね。
榎田:私も驚きました(笑)。ニーズの高そうな4機能から始めたところ、防災機能を使うために友だち登録したという声をよく聞きます。セグメント配信は5か月半で約550件になり、新型コロナ情報を選択している方が一番多いです。公園や河川の不具合通報は、ユーザー目線の要望が多く、市民サービスの向上につながっていると思います。
神崎:ごみの分別をチャットで回答する機能は、市民の皆さんにかなり好評です。今までは例年、年末の大掃除の時期になると、担当職員数人が電話にかかりきりになるくらい分別に関する質問が多かったのですが、昨年末はかなり減ったそうです。市役所としても助かりました。
経営企画部秘書広報課広報広聴担当 主任 榎田正治さん
市に危機管理担当を新設
LINEの災害モードで災害発生時に対応
―4機能を追加・拡充されたきっかけは?
榎田:初めから少しずつ便利にしていくつもりでした。AIによる行政手続きの案内は、今年4月に市のウェブサイトに導入する予定で進めており、それをLINEにも追加しました。学習アプリは、新型コロナをきっかけにしたアイデアで、時事問題などもあって大人も脳トレ感覚で楽しめます。
バスの時刻表は、もともと市のウェブサイトで最もアクセスが多かったのですが、複雑で見にくいのが難点でした。LINEに入れて欲しいという市民からの要望があり、分かりやすくなったと評判です。
―そして、防災情報の機能を拡充されました。
榎田:まず8月のスタート時に防災情報を集めましたが、PDFのハザードマップや防災関連リンク集などを見て、自分で避難所や避難行動などの情報を探していただく必要がありました。今回の拡充により、災害発生時には全ユーザーの画面が「災害モード」に切り替わり、状況に応じた避難行動の案内を受けたり、位置情報から最寄りの避難所も確認できたりするようになりました。
―春日市民の皆さんは、もともと防災意識が高いのですか?
武末:春日市には大きな山や川がなく、海が近いわけでもないので、県内でも一番警報が出にくいほど‟安全な市“と言われています。ですが、市民の皆さんには災害を「自分ごと」として考えて防災意識を高く持って欲しいと考えています。
市としては、2014年に安全安心課という名称で、市民の方にとって分かりやすい窓口を作りました。今年4月1日には、安全安心課の中に危機管理担当を新設します。防災関係や感染症のまん延防止の全体調整、弾道ミサイル攻撃などに対する国民保護など、市の危機管理全般を対応する予定です。
地域生活部 安全安心課 課長 武末克枝さん
昨年の台風前は電話が殺到
現場の経験を今後に生かしていく
-昨年9月、過去最強クラスの台風が接近する恐れがあったときは、どんな対応をされましたか?
神崎:あのときは本当に大変でした…。
武末:あまりに問い合わせが多かったため、市民の不安解消を第一に考え、総合スポーツセンターを避難所として開設し、感染症対策に対応した避難所運営を行いました。また、総合スポーツセンターの他にも、地区公民館で多くの避難者を受け入れてもらいました。
また、台風がまだ鹿児島にいる3日ぐらい前から避難を呼びかける報道が続き、市民の方々から「逃げないといけない」「どうしたらいいですか」というような電話が鳴り続け、週末も職員が出勤し、1日150~200件の電話に対応しました。
―なるほど、台風の経験からみえてきたことがたくさんあるのですね。
榎田:はい、これまで全て市役所に電話で問い合わせをされていたのですが、今回LINEの災害時モードなどを追加したことで、皆さんが自分で具体的な避難行動や、最寄りで開いている避難所を確認できるようになったのは、非常に意義があると思っています。幸い、まだ活用するような災害が起こっていないので、実感するには至っていませんが、備えとして心強いですね。
武末:年々、災害は激甚化しています。市役所の体制を整え、職員のレベルアップを図る一方で、市民の方々の啓発活動にも力を入れていきたいと考えています。そのとき、老若男女のバランスよくユーザーが多いLINEは、情報を届けるためのとても有効なツールだと思います。
今後、もしできれば防災に関するクイズやゲームなど、皆さんが日頃から楽しみながら防災感覚を養えるようなコンテンツがあるといいですね。ご家族でやってみて、避難所はどこに行くなどと話し合うきっかけづくりにもなるとうれしいです。
―とてもいいアイデアですね。ところで、春日市は全国で最初にGovTechプログラムを取り入れていただき、前向きで柔軟な印象があります。市役所にそんな気質があるのでしょうか?
神崎:いえいえ、市民の方々の意識が高く、35地区の自治会も積極的に活動されていて、職員たちは市民の方々に育てられ助けられてきた感じです。
1980年代に全国の市の中では春日市が最初に制定した「情報公開条例」も、きっかけは住民の要望からだったと聞いています。現在は、子どもたちを学校・保護者・地域で育てるコミュニティスクールの先進地として知られていますが、以前から行政と住民の皆さんがいい関係を結べているんですよね。
役所内での評判は上々
できることから始めてみよう
―LINEについて、職員の中ではどんな反応がありますか?
榎田:期待値はとても高いと思います。今は市民目線の機能を中心にしているのですが、職員からは事務の効率化や、市制50周年に向けたPRなどに利用できないかという声も出ていて、「友だち」が増えている分、発信力への期待の高さを感じます。
-GovTechプログラムを導入されて、困ったことや失敗したと思われることがあれば、率直に教えてください。
榎田:うーん、特にないですね。公園・河川の不具合の通報は、問い合わせが激増すると対応できないかもしれないという懸念があり、通報の対象を慎重に検討してスタートしました。導入してみると、対応しきれないほどの通報はなく、むしろ今まで届かなかったリアルな声が届くようになり、メリットが大きいと感じています。他の自治体の方から、いろいろお問い合わせいただくこともありますよ。
神崎:そうなんです、本当に困ったことはないんですよね。こちらの要望を聞いてきめ細かく対応してくれるLINEさんに感謝しています。私も結構いろんな自治体の方から「導入してみてどうですか」と聞かれますが、「やってみたらいいですよ」とおすすめしています。
総務部総務課 課長 神崎由美さん
-いち早く導入された経験をもとに、今後の意気込みや、全国の自治体に向けてメッセージをお願いします。
武末:防災は、市民の命や財産を守る、自治体にとって重要な分野です。ただ、何もないときはなかなか興味や関心を持ってもらえず、皆さんの意識を底上げしていくことが行政の役割だと考えています。皆さんにとって身近なLINEをうまく活用して、工夫しながら安全安心な春日市を目指します。
榎田:導入してみて、メリットしかないと実感しています。防災や災害に関しては、私たちがもともと持っていたウェブサイトは「プッシュ型」の情報ではないことや、総合情報メール(市民向けのメーリングリスト)の登録者は利用者が伸び悩んでいること、アクセスが集中した場合にサーバーに負荷がかかることが心配でした。その点、LINEはユーザー数が断トツで多く、プッシュ型でアクセス集中のリスクが低く、導入経費がかなり安いのも自治体としては重要なポイントでした。
神崎:最終的には、申請や決済など全てがオンラインでできるようになるのが理想だと思っています。高齢の方や障害のある方、子育て中の方など、日常の外出がままならない方たちにこそ使っていただきたい。
自治体の皆さん、迷っているうちにチャンスはどんどん失われていくので、スモールステップで、まずはやれるところからやってみられてはいかがでしょうか。私たちもどんどん進化させていくつもりです。